【クラブ員コラム】石川県 宮本健一

地域創生-地域から愛され,必要とされる農家になりたい-

就農のきっかけ

就農のきっかけ2013年に就農した私は,それまで関西でホテルマンとして働いていた。実家が農家ということもあり,稲刈りの時
期に合わせ夏休みを取り収穫の手伝いをするため,里帰りをした。手伝いを終えホテルに戻る際,収穫した新米を手土産に帰り同僚・先輩に配ると後日,皆が絶賛してくれる。「みやけんの米 美味しかったわ~」この言葉が純粋に嬉しかった。人に喜んでもらいたい,役に立ちたいという想いでサービス業で働いていたが,農業でもそれが出来る。種を播くことから収穫までし,そのお米を「美味しい」と言ってもらった時の喜びはホテルマンを超える。「農業こそ最高のサービス業や」と感じ実家に帰り就農する決意をした。

経営内容

現在,就農6年目。石川県小松市で水稲17ha,「小松イ草」0.6haの生産・販売を家族経営で行っている。水稲に関しては「コシヒカリ」「ひ ゃ く ま ん 穀ごく」を 中 心 に 栽 培。JA・米穀店への出荷に加え,直売を行っている。直売といっても目の届く範囲。「生産者が見える野菜で安心」とよく言うが,サービス業を経験しているためか,私は食べてくれる人が見えること,扱う人が見えることに安心とやり甲斐を感じる。全体の2割に満たない直売だが,皆の顔が見えている。見えない人に売ることに違和感を感じるのも個性。現にネットページもあるが,出会った人が購入しやすいように作っている程度。もちろんネット販売で凄い売上の人を見ると羨ましく思うが,私は私らしく,見える関係を築きながらご縁を広げていきたい。昨年から小学校の田植え・稲刈り実習の先生役も引き受けるようになった。通学中の子ども達が「お米のおじさん」と笑いながら叫んできたり,地元のイベントでも声を掛けて
くれるようになった。こういったきっかけを大切に,農家にあこがれてくれる子どもが出てきたら嬉しい。小松はイグサの北限の産地で,昭和30年代には約1,400軒の農家がイグサを栽培していたが,私が就農した時点で,地域で唯一の生産農家となっていた。「美味しいお米を作るぞ」と就農したが,イグサも何とかしないといけない状態だった。幸いにも同じ危機感を持ってくれていた畳屋・家具工房が呼びかけてくれ,農商工が連携した「小松イ草」の知
名度を拡大するためのプロジェクトが始まった。地元でのイベント・展示会・メディア露出に加え,時代に合った畳商品の開発や規格外の短いイグサを使用した商品が開発された。それまで田んぼに捨てていた規格外のイグサが商品になることで数十万円だが売り上げに貢献している。私が提案した「小松イ草」の正月飾りは,地元の生花店に制作・販売を依頼。素材を提供し,その後を各生花店で行ってもらうことで普及するスピードが上がると考えている。家具工房や畳屋とも商品の開発を行ったが,素材提供のみで制作・販売は一任している。この「小松イ草」の正月飾りを地域の文化にしたい。畳は1度変えたら何年も変えない。しかし,お正月は1年に1度必ずやってくる。ここで小松イ草に触れ、天然の色味や香りを感じてもらい、次の世代へと地域の伝
統を伝えるきっかになれば嬉しい。

地域創生

現在,私が大切にしている言葉。地域とは単に石川や小松といった地名ではなく,自分の住んでいる・農業をしている・活動している場所。その場所をより良いものにする,次の人たちのために持続可能な形にすることを意識している。「農業こそ最高のサービス業や」と農家になり早6年。当初は「美味しい」という言葉のために良いモノを作って届ける。これに魅力を感じていたし,そう話す農家さんも多い。ただ就農して6年,4 H や地域活動を通して農家は作物を作る以外にも,人々の暮らしを守っていることに気が付いた。地元の消防団に入っている人も多いと思う。例えば,私の場合,数年前から町の排水機場を管理している。近年の大雨や台風の時には,処理能力を超える雨が降る。そういった時に地域の排水の流れや,土地の低い所を把握できているのは農家だ。また田んぼが貯水槽となり洪水を食い止めている場合もある。こういった農家や田んぼの役割をしっかりと地域の人に伝えていくこと。そうすることで人の命を守れるし,農地だって守ることが出来ると考える。そのためにも人との繋がりが大切だ。ただ私だけ繋がっていても意味がない。多くの農家がいろいろな業種の話を聞くこと,また逆に想いや考えを伝える機会が増えることで,農家が地域に影響を与える可能性も増える。そこで今年は地元の農業青年と商工会を繋ぐ取り組みを行った。商工業者が農地を見学したり,交流会を開催した。また石川では今年2月に大雪の被害があり,地域では700棟を超えるハウスに被害がでた。ただお金を寄付するよりも,いかに被害にあった農地を農地に戻すか考えた結果,農業青年でクラウドファンディングを立ち上げ,地元 JA にハウス解体用に電動ノコギリを寄贈した。

人が付加価値になる時代

自社の仕事以外のことをやるには体力が必要。でも地域を耕すこと,これも農家の仕事だと思う。これから技術の進歩で経験にあまり関係なく作業ができる。技術の差がなくなる。現に無農薬や有機栽培の野菜や似たサービスは多くある。そんな中,これから付加価値になるのは人の魅力だと考える。ブログや動画で伝えるのが得意な人もいれば,そうでない人もいる。得意不得意はあるが,全て個性。私は SNSは使っているがネットでの発信が苦手。ただ「もし自分が○○だったら・・・」このホテルマン時代に叩き込まれた考え方。常にこれが出来るのは私の強味。自分の置かれた場所で常に期待を超える活躍をすること,勝ちにこだわることを意識したい。その成功体験が自信になり,これから出会っていく方々と相乗効果を起こしていく。農業を通じて,今を生きる人,そして次の人たちが暮らしやすい地域を作り続けていきたい。「地域から愛され,必要とされる農家になりたい」,これが私の農業経営の志である。

引用:公益財団法人 大日本農会「農業」平成30年(2018)11月号~私の経営と志~